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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)8799号 判決 1992年10月28日

原告

柳浩相

右訴訟代理人弁護士

正木孝明

被告

東伸化成株式会社

右代表者代表取締役

木戸龍夫

右訴訟代理人弁護士

池本美郎

村田喬

主文

原告と被告間の大阪地方裁判所平成二年(手ワ)第三二三号約束手形金請求事件について同裁判所が平成二年一一月二〇日に言い渡した手形判決を次のとおり変更する。

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、次の金員を支払え。

(一) 金八五〇万円及びこれに対する平成元年一〇月五日から支払済みまで年六分の割合による金員

(二) 金五九八万円及びこれに対する同年一一月五日から支払済みまで年六分の割合による金員

(三) 金一五六五万円及びこれに対する同年一二月五日から支払済みまで年六分の割合による金員

(四) 金一七一一万円及びこれに対する平成二年一月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙約束手形目録1ないし7のとおりの記載がある約束手形七通(以下「本件1ないし7の手形」又は「本件各手形」という。)を所持している。

2  被告は、本件各手形を振り出した。

3  信用組合大阪興銀(以下「大阪興銀」という)は、各支払呈示期間内に支払場所で支払のため本件各手形を呈示したが、いずれもその支払がなかった。

4  被告は、その後、大阪興銀に対し、本件1の手形金一〇〇〇万円のうち金八二五万円を支払った。

5  原告は、大阪興銀から各第一裏書の被裏書人欄を抹消のうえ本件各手形の交付を受けてその手形上の権利を取得した。

6  よって、原告は被告に対し、本件1の手形金の残金一七五万円及びその余の本件各手形金とこれに対する各満期の日から支払済みまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因のうち1の事実は知らない。その余の事実は認める。

三  抗弁

1  融通手形の抗弁

(一) (前提となる事実)

本件各手形は、被告が、疎外栄和化工株式会社(以下「栄和化工」という。)の資金繰りを援助するために同社に振出交付した、いわゆる融通手形である。

栄和化工は、取引銀行である大阪興銀において本件各手形の割引を受けたが、平成元年九月五日に二回目の不渡りを出して事実上倒産した。原告は、栄和化工の大阪興銀に対する債務の連帯保証人であり、かつ、栄和化工の大阪興銀に対する債務のために原告所有の自宅に根抵当権を設定した物上保証人であったが、本件各手形の買戻債務を含む栄和化工の大阪興銀に対する債務合計約一億二〇〇〇万円を代位弁済し、大阪興銀は本件各手形の第一被裏書人欄を抹消のうえ原告に交付し、原告は本件各手形を取得した。

(二) 原告は栄和化工と実質的に一体と見られるから、被告は栄和化工に対する融通手形の抗弁をもって原告に対抗できる。

すなわち、原告は、栄和化工の代表取締役である柳鉉次(以下「鉉次」という。)の実兄であって、同社の専務取締役として経理面の責任者としての地位にあった者であり、取引銀行である大阪興銀との融資交渉や、被告に対する融通手形の振出の依頼を行い、被告において振り出す融通手形の額面金額についても原告が具体的に指示していた。また、右融通手形の決済資金は、原告が自己の名で被告の当座預金口座に振り込んでいた。本件各手形も原告の指示に基づいて被告が振り出したものである。さらに、前記のとおり、原告は、栄和化工の大阪興銀に対する債務につき連帯保証し、原告所有の自宅の土地建物に権利者を大阪興銀、債務者を栄和化工とする極度額合計金二億八〇〇〇万円の根抵当権を設定していた。このような原告の立場からすれば、原告は、本件各手形の振出について栄和化工と密接に経済的利害を共通にし、実質的に一体と見られると解するべきである。

2  仮に1の主張が認められないとしても、融通手形の授受がされた場合の融通者、被融通者の関係は、融通者は自己の信用を供与して第三者から金融を受けさせる目的で手形を振り出すものであり、同手形の決済は融通者、被融通者間では被融通者の計算に属するもので、融通者が自ら決済をしてもそれは実質的には他人の債務を弁済したことになるものであるから、融通者は被融通者に対する保証人としての実質を有するものと解するのが相当である。したがって、被融通者において融通手形を担保として金融を受けた場合における被担保債務の手形外の保証人と、担保に供された融通手形の振出人との関係は主債務者に対する保証人が複数存在する場合を類推するのが相当である。

そして、本件では、栄和化工の大阪興銀に対する債務の連帯保証人として、原告、鉉次、柳敏子、土田和鋭、岩本健雨の五名がおり、これに前記のとおり保証人としての立場にある被告を加えると合計六名の共同保証人が存在することになる。そして、原告の手形金請求は、他の共同保証人に対する求償権の範囲に制限されるものというべきところ、保証人間の負担は平等と解されるから、被告の負担部分は六分の一である。本件各手形の額面合計額は金五五四九万円であり、被告の負担部分はその六分の一に相当する金九二四万八三三三円である。被告はすでに金八二五万円を大阪興銀に支払い済みであるから、被告の負担部分の残金は金九九万八三三三円であり、右を越える原告の請求は理由がない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実(前提となる事実)はいずれも認める。

2  抗弁1(二)の事実のうち、原告が、栄和化工の代表取締役である鉉次の実兄であること、原告が、同社において「専務」と呼ばれていたこと、原告は、栄和化工の大阪興銀に対する債務につき連帯保証し、原告所有の自宅の土地建物に権利者を大阪興銀、債務者を栄和化工とする極度額合計金二億八〇〇〇万円の根抵当権を設定していたことは認め、その余は否認する。

(抗弁1に関する原告の反論)

(一) 原告は昭和五九年三月一九日に栄和化工に入社し、経理事務を担当する従業員として勤務していたが、鉉次と意見が合わなかったことから昭和六二年五月末頃同社を退職した。その後、栄和化工は、従前行っていた風呂蓋の製造を中止し、被告、株式会社マルワ(以下「マルワ」という。)、第一化成株式会社(以下「第一化成」という。)と共同して、洗面器、石鹸入れ等の浴場用のプラスチック製品の開発をすることになった。そして、その資金は、右被告ら三社(以下「被告ら三社」という。)が栄和化工に対して融通手形を振り出すことによって作出することとなり、被告ら三社から栄和化工に対して多額の融通手形が振り出された。

(二) ところが、右プラスチック製品の販売が不調で栄和化工の資金繰りが行き詰まり、昭和六三年三月末日頃に期日が到来する手形の決済が不可能な状態となった。同月二六日、原告は大阪興銀の担当者である疎外高原昌照からその旨の連絡を受けて、直ちに、栄和化工の事務員に融通手形の振出関係を調査させ、原告、鉉次、マルワ代表者土田和鋭及び被告代表者らが集まって善後策を協議した。その結果、栄和化工は新製品の製造から撤退すること、栄和化工が大阪興銀において割り引いている被告ら三社振出の融通手形は、大阪興銀に依頼して期限をジャンプしてもらうこと、栄和化工が仕入れ先等に交付している被告ら三社及び栄和化工振出の手形は、被告ら三社が新たに手形を振り出し、大阪興銀で割り引いて資金を作り決済することになった。

(三) このようにして、原告は昭和六三年三月二七日から再び栄和化工の経理事務を担当するようになり、被告らに対して融通手形の振り出しの依頼をファックスで行うなどの事務を担当していたが、これは、前記(一)のとおり原告が栄和化工を退職した後に原告の関与なしに膨らんだ融通手形の後始末のために行っていたに過ぎず、また、鉉次や被告代表者が話し合った結果を実行する単なる事務手続をしていたに過ぎない。

(四) さらに、その後、原告は鉉次と意見が合わなくなったことから、平成元年一月二五日、栄和化工を退職し、以後同社の業務にはまったく関与していない。本件各手形の振出は、同年五月以降のことであるから、原告は右振出に関与していない。

(五) 以上の事情からして、本件各手形の振出に関して原告が栄和化工と実質的に一体と見られる関係にあるとは到底いえない。

3  抗弁2の事実のうち、栄和化工の大阪興銀に対する債務の根保証人が原告、鉉次、柳敏子、土田和鋭であることは認め、岩本健雨が根保証人であることは知らない。なお、鉉次は無資力であり、柳敏子の負担部分はない。

融通手形の振出人が、法律的に共同保証人と同一の立場に立つとの主張は争う。右振出人が融通手形を決済した場合に、他の保証人に求償できないのであって、相互に求償関係にないこと等からしても、振出人が経済的に保証人的地位あるからといって法的にも保証人と同視されるのは不当である。

第三  証拠<省略>

理由

一争いのない事実等

請求原因2ないし5の事実は当事者間に争いがなく、同1の事実は<書証番号略>により認める。

抗弁事実のうち1(一)の事実(前提となる事実)は当事者間に争いがなく、右事実と<書証番号略>によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  本件各手形は、被告が、栄和化工の資金繰りを援助するために同社に振出交付した、いわゆる融通手形である。

2  栄和化工は、取引銀行である大阪興銀において本件各手形の割引を受けたが、平成元年九月五日に二回目の不渡りを出して事実上倒産した。原告は、栄和化工の大阪興銀に対する一切の債務につき保証限度額の定めのない連帯保証人であったので、平成二年九月二五日、本件各手形の買戻義務を含む栄和化工の大阪興銀に対する債務合計約一億二〇〇〇万円を栄和化工に代わって弁済し、大阪興銀は本件各手形の第一被裏書人欄を抹消のうえ原告に交付し、原告は本件各手形を取得した。

二融通手形の抗弁について

被告は、融通手形である本件各手形の振出に関し、原告は栄和化工と密接に経済的利害を共通にし、実質的に一体と見られる関係があるから、栄和化工に対して対抗し得る融通手形の抗弁をもって原告にも対抗し得る、と主張する。

1  そこで、まず、原告と栄和化工との関係、本件各手形振出に関する原告の関与等について検討する。

抗弁1(二)の事実のうち、原告が、栄和化工の代表取締役である鉉次の実兄であり、同社において「専務」と呼ばれていたこと、原告が、栄和化工の大阪興銀に対する債務につき連帯保証し、原告所有の自宅の土地建物に権利者を大阪興銀、債務者を栄和化工とする極度額合計金二億八〇〇〇万円の根抵当権を設定していたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<書証番号略>、原告本人(但し、後記採用しない部分を除く。)及び被告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果中の一部、証人保田富巳の証言、<書証番号略>中の一部は、<書証番号略>及び被告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨に照らして採用することはできず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  栄和化工は、昭和五二年六月頃設立された、ビニール製品等の製造販売を目的とする資本金一二〇〇万円の会社で、登記簿上は昭和五六年一二月頃まで、岩本健雨が代表取締役で、その後、鉉次が代表取締役に就任したこととなっていたが、実質的には設立当初から鉉次が経営する会社であった。栄和化工の取締役は鉉次のほか、右岩本健雨及び岩本智義がいたが、右二名はいずれも名目上の取締役に過ぎなかった。

(二)  原告は、鉉次の実兄であり、かつて、自らビニール加工業を営んでいたが、昭和五九年頃から、栄和化工において働くようになり、経理及び事務関係の処理を担当し、遅くとも昭和六〇年頃からは、資金繰りを鉉次とともに行うようになり、金融機関に対する融資の依頼等の折衝はむしろ原告が中心となって行っていた。また、原告は栄和化工の役員ではなかったが、対外的には「専務」と名乗っていた。

栄和化工は昭和六〇年六月頃、奈良県山辺郡所在の土地を購入して、新工場を建設し、右工場で風呂蓋等の製造等を行っていたが、経営が思わしくなかったため、昭和六二年五月頃右土地及び工場を第三者に売却して、事業規模を縮小し、右事態を機に、原告が一時期栄和化工の運営から退いていたことがあった。

(三)  しかし、昭和六三年三月末頃、栄和化工の資金繰りが行き詰まり、不渡りを出す恐れが生じたため、栄和化工の倒産を防ぎ、後記(五)(1)(2)のとおり根抵当権を設定した自己所有の物件を保全するべく、原告は、その頃、栄和化工に復帰し、栄和化工に対して融通手形を振り出していた被告、マルワの各代表者らと資金繰りの相談をし、被告、マルワ及び第一化成(前記被告ら三社)に対し、融通手形の振出を継続することによる資金援助の継続を要請し、さらに手形の割引先であった大阪興銀からも手形割引の継続についての同意を得た。

そのため、大阪興銀から担保を追加するよう要求され、原告は既に後記(五)(1)(2)記載のとおり自己の所有する物件に設定していた担保に加え、後記(五)(3)(4)の担保を追加した。一方では、原告の依頼により、マルワの代表者土田和鋭所有の土地建物に、昭和六三年五月七日、栄和化工を債務者とする極度額金一億五〇〇〇万円の根抵当権が設定された。

右のような資金繰りの方針の決定や担保権の設定については、原告が交渉の中心となってこれにあたった。

右の方針に基づき、被告の栄和化工に対する融通手形の発行が続いたのであるが、栄和化工から被告に対する融通手形の振出の依頼は、必要な都度、原告がファックス等によりその金額、支払期日等を具体的に指示し、被告はこれに従って融通手形を栄和化工に対して発行していた。また、被告振出手形の決済資金を原告が自らの名で被告の当座預金口座に振り込むこともあった。

(四)  このようにして昭和六三年四月以降、被告から栄和化工に対する融通手形の発行高が増大するとともに、栄和化工が大阪興銀において割引を受けた被告振出の手形の額も増大してゆき、昭和六三年三月末日当時、被告の融通手形の発行総額(未決済のもの)は約金六九一四万円で、うち大阪興銀により割引を受けていた手形の額は計金三二二四万円であったものが、昭和六三年七月末頃には、被告の融通手形の発行総額(未決済のもの)は金一億一〇〇〇万円程度に増加し、同年一〇月末頃までその状態が続いた。大阪興銀において割引を受けた被告振出手形の額は、同年七月末頃には最大額である約金六五二四万円に達した。

その後、大阪興銀において割引をうけた被告振出の手形については、被告、栄和化工及び大阪興銀の取り決めにより、栄和化工が毎月金利及び金七五万円を大阪興銀に弁済することにより、満期の到来した被告振出の割引手形を、額面を七五万円減額した被告振出の新たな手形に書き替えていった。右も原告が被告及び大阪興銀と交渉してこれを取り決めた。

その結果、昭和六三年八月から平成元年八月までの一三か月間にわたって、栄和化工は大阪興銀に毎月金利及び金七五万円を弁済し、大阪興銀に交付される被告振出手形の金額も順次減少していき、最終的には本件各手形となるに至った(前記の金六五二四万円から金七五万円の一三か月分金九七五万円を減じて、本件各手形の額面金額の合計である金五五四九万円となった。)。

(五)  ところで、原告は、昭和六〇年八月末日頃、鉉次とともに、栄和化工の大阪興銀に対する一切の債務について保証限度額に定めのない連帯根保証人となっており、さらに、鉉次は大阪興銀に対し、物的担保は提供していなかったが、原告は、その時々の栄和化工の債務の状況に応じて、大阪興銀の要求に従い、次のとおりその所有物件について栄和化工のために大阪興銀を権利者とする根抵当権を設定していった(年月日は登記日)。

(1) 昭和六一年一二月二四日、松原市東新町所在の宅地建物に極度額金二億円の根抵当権

(2) 昭和六二年八月二九日、生駒市高山町所在の宅地建物(建物については持分五分の一は原告の妻柳敏子の所有)に極度額金八〇〇〇万円の根抵当権

(3) 昭和六三年四月二七日、生駒市高山町所在の山林に極度額四〇〇〇万円の根抵当権

(4) 昭和六三年五月一一日、同物件に極度額六〇〇万円の根抵当権(大阪商工信用金庫から大阪興銀に移転されたもの)

(5) 平成元年二月二三日、生駒市高山町所在の宅地建物(前記(2)記載の物件)に極度額二億円の根抵当権(前記(1)記載の根抵当権の共同担保)

(6) 同日、生駒市高山町所在の山林(前記(3)記載の物件)に極度額二億円の根抵当権(前記(1)記載の根抵当権の共同担保)

2 以上に認定した、栄和化工の代表者鉉次の実兄としての身分関係、栄和化工の取引銀行で主たる手形の割引先である大阪興銀に対して栄和化工のために包括的な連帯根保証をするとともに、取引の推移に応じて極度額合計三億二六〇〇万円にのぼる根抵当権を設定してきたという人的物的担保の設定状況、専務と称して対外的な折衝を行い、栄和化工の資金繰りについて中心的役割を果していたこと等に鑑みれば、原告は栄和化工の共同経営者かそれに近い立場にあったと解し得るのであり、これに加えて、栄和化工に対する融通手形の振出という形による被告の資金援助を要請するについては、原告が中心となって考えた資金計画に基づいて原告自身がこれを行っており、これは前記のとおり担保権を設定した自己の所有物件の保全をも目的とした行為であったのであるから、原告と栄和化工は本件各手形の振出に関して密接に経済的利害を共通にするものであるといえる。

したがって、原告は代位弁済によって大阪興銀から本件各手形を取得したとはいえ、原告から被告に対して本件各手形金の請求を行うことは、信義則上、被告から金融の便宜を与えられた栄和化工自身が本件各手形金の請求を行う場合と同視することができ、被告は、栄和化工に対する融通手形の抗弁をもって原告に対抗することができるというべきである。

3(一)  以上の認定判断に対して、原告は、昭和六三年三月末頃から栄和化工の資金繰りに関与したことは認めるが、これは、昭和六二年五月末頃原告が栄和化工を止めた後、原告の関与なしに被告ら三社が栄和化工に対して振り出した多額の融通手形の後始末を行ったに過ぎない旨反論する。

たしかに、前記1(二)記載のとおり、原告が昭和六三年三月末頃以前に栄和化工の運営から退いていた一時期はあったが、原告の復帰以降、前記1(三)、(四)記載のとおり、原告が中心となって立てた資金繰りの方針に基づき、被告の融通手形の振出額は著しく増大したのであるから、原告の主動のもとに被告による新たな資金援助が行われたというべきであるし、また、復帰前に存在した栄和化工の債務についても、その決済方法を関係者と相談のうえ決定していったのは原告であるところから見ても、原告の関与を単に事務的な手形の後始末ということはできず、原告の反論は当を得ない。

(二)  さらに、原告は、平成元年一月二五日、栄和化工を退職したので、その後の融通手形の振出は原告とは無関係であると反論する。

たしかに、<書証番号略>によれば、原告は、社会保険の資格上、平成元年一月二六日をもって栄和化工を退社したこととされており、また、<書証番号略>によれば、その頃以降は原告の名によるファックスの送信が存在しないが、前記1(五)(5)(6)のとおり、平成元年二月二三日には、生駒市高山町所在の宅地建物(原告の自宅)等に大阪興銀のために極度額金二億円の根抵当権を設定していることや、<書証番号略>及び被告代表者尋問の結果によれば、退社したと称する時期以降も、原告は栄和化工の運営に関与していたと認めることができるのであり、これに反する証人保田富巳の証言及び原告本人尋問の結果は前掲証拠に照らして採用できない。

また、仮に、平成元年一月二六日をもって原告が栄和化工の運営から退いたとの原告の主張を認めるとしても、本件各手形(平成元年五月から九月までの間に振り出されたもの)は、前記1(四)認定のとおりの経緯で、昭和六三年七月末頃に約金六五二四万円に達した大阪興銀の割引手形について、毎月金七五万円の弁済を行いながら書替を繰り返した結果残った最後の手形であり、このような一部弁済及び書替の方針は原告が被告及び大阪興銀と交渉して取り決めたものであり、本件各手形は右取り決め通りに振り出されたものであるから、原告の依頼によって振り出された手形と同視することができるのであって、いずれにしても、原告の反論には理由がない。

三以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はすべて理由がないから、これと一部判断を異にする本件手形判決を変更し、原告の請求を棄却することとして、民訴法四五七条一項、二項、四五八条二項、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松本克己 裁判官山田貞夫 裁判官小野憲一)

別紙手形目録

1 金額 金一〇〇〇万円

満期 平成元年一〇月五日

支払地 大阪市

支払場所 信用組合大阪興銀東成支店

振出地 大阪市

振出日 平成元年五月一〇日

振出人 東伸化成株式会社

受取人 栄和化工株式会社

裏書関係 受取人から信用組合大阪興銀へ裏書(被裏書人欄抹消ずみ)

2 金額 金六七五万円(その他の記載事項は手形1と同じ。)

3 金額 金五九八万円

満期 平成元年一一月五日

振出日 平成元年六月一四日

(その他の記載事項は手形1と同じ。)

4 金額 金一〇〇〇万円

満期 平成元年一二月五日

振出日 平成元年七月二七日

(その他の記載事項は手形1と同じ。)

5 金額 金五〇〇万円

満期 平成元年一二月五日

振出日 平成元年七月二七日

(その他の記載事項は手形1と同じ。)

6 金額 金六五万円

満期 平成元年一二月五日

振出日 平成元年七月二七日

(その他の記載事項は手形1と同じ。)

7 金額 金一七一一万円

満期 平成二年一月一〇日

振出日 平成元年九月一日

(その他の記載事項は手形1と同じ。)

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